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「銀行をブランディングする」―【対談】みんなの銀行 x Fjord Tokyo

こんにちは。Fjord Tokyo サービスデザイナーの郷上です。

今回の記事では、みんなの銀行とのプロジェクトをご紹介。Fjord Tokyoビジュアルデザインディレクターの柳とみんなの銀行デザインディレクターの中村さん(以下敬称略)との対談に筆者の感想を交えつつ、みんなの銀行をブランディングの観点で紐解いていきます

テーマはすばり「銀行をブランディングする」。といっても話は見た目だけには収まりません。ブランドの作り方が変わり、広告のような見た目の部分だけではなく、ユーザーへと届ける体験が重要になっているからです。

だからこそ、既存銀行の抱える課題やデジタルネイティブ世代の銀行への印象を踏まえて、新たな銀行のブランド体験をみんなの銀行のメンバーと一緒にデザインしていきました。その中身を対談の内容を通してご紹介していきたいと思います。


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(今回はオンラインでの対談。みんなの銀行のオンライン会議用背景を使用。かわいい…!)

銀行への期待感をデザインで生み出す

対談の中でまず話題にあがったのは、銀行業界が抱える課題とブランディングの必要性。そこに対する共通認識があったからこそ、良い関係を築きながらブランディングを進めることができたと語ります。

Q. そもそも銀行業界が抱える課題どのように捉えている?
中村:信頼が重要であるがゆえに堅く見えてしまいがち。どうしても形式張ってしまうように見えていた。

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中村 隆俊
株式会社みんなの銀行 デザイングループ リーダー。デザインマネージメントおよびディレクションを担当。デジタル領域のプロダクトデザイン(UI/UX)を中心に株式会社エムスリー、株式会社ラクスルを経て、2019年に東京から福岡へ移住。ふくおかフィナンシャルグループ みんなの銀行プロジェクトに参画し現在に至る。HCD-NET認定 人間中心設計専門家。趣味はクラフトビール探索。

柳:特にデジタルネイティブ層は、銀行に対して期待も不満もない。ただ「お金を置く場所」としか見られていなかった。それを変える必要があると考えていた。

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柳 太漢
FJORD TOKYO ビジュアルデザインディレクター。これまでクリエイティブエージェンシーにて、デジタルを中心とした仕事に従事。現在は、コーポレートブランディングからプロダクト、スペース、マーケティング領域まで、固定概念に囚われない視覚的アプローチを主軸に、幅広い企業を支援。趣味は今までフェラーリを買えるほど課金したスマホゲーム。

Q. そもそもブランディングをどのように定義している?
中村:いわゆる認知の部分。ぱっと見た時に瞬時にブランドをイメージすることができるモノの設計

柳:色んな概念がありますが、Fjordでは「ブランドとは体験の集積」と言っています。つまり、ブランディングというのは、ブランド自身が大事にする価値を定義し、すべての接点を通じて、その価値を体現する一貫した体験をつくることを指している。

それを踏まえた上で、今回のプロジェクトの場合は中村さんと同じような意識を持っていました。特に、イメージを個性として、どのように作っていくかの部分。

Q. どのようなブランディングを目指した?
柳:今回のブランディングでは特にビジュアルを重視した。五感における人の情報認識の8割が「視覚」と言われている。つまり、どれだけ根っこの部分を言語化したとしても、伝わる時は目から伝わる。ビジュアルで表現することで一発でキャズム、つまり市場にサービスを普及させるために超えるべき溝に橋をかけようというのを心がけていた

中村:銀行のブランドロゴを並べた時に、色は違えど、印象は同じなのかなと。いままでとは違う印象をデザインでどうつくるかを考えた

柳:期待が無い存在から、生活において必要な存在へ。ユーザーからどうやったら必要だと意識してもらえるのかを考えた。

筆者自身もターゲットであるデジタルネイティブ層の一人であるが、2人のあげた課題は実感値と近い。銀行と感情的なつながりを感じたこともなければ、「お金を預ける場所」以上の期待もないのが正直なところ。同じような感覚で銀行と接している人も多いのでは。

「銀行」と「ブランディング」という一見相容れないように見える2つの言葉。しかし、銀行の抱えていた「期待感の無さ」という課題に対して、「瞬時に連想するイメージ」を設計するブランディングという解決策がぴったりはまったことが2人の話から伝わってくる。

脈々と続く文脈の中での新しさを設計

全く新しい銀行を目指しながら、名前の着地点は「みんなの銀行」に。ここからも「銀行」という名前に想いが乗っていることがうかがえる。その理由を2人はこう説明します。

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(柳さん埋まりすぎ。)

Q. なぜ「銀行」なのか?
柳:わざわざ「銀行」という名前を使うことには意味がある。「銀行」という言葉には、脈々と積み上げられた概念と歴史がある。それを「全く新しく定義しなおしてしまうのは違う」という、みんなの銀行の皆さんの想いと共にディスカッションしてきた。既存の概念を活かしながら、次の段階へとアップデートすること、これが強いブランドを形成するのではと考えた。結果、「銀行」という言葉を使うことが、サービスに新規性と同時に信頼を感じられる大きな要因になっていると考える。それくらい「銀行」という言葉は強い。

中村:柳さんと同じ。積み上げてきたレガシーがある中で、すべてをひっくり返すという訳にもいかない。文脈の中で、新しいものを生み出していくことに挑戦した。その中には難しさはもちろん、ワクワク感もあった。

新しいサービス設計をしていく上で大きな壁としてぶつかることが多いのが「新規性と信頼性」のバランス。「銀行」という名前を使うことで信頼性を継承しつつ、「新しい、かつ、信頼できる」という存在の確立に至ったことがわかる。

特に銀行の場合、どんなに新しくてもそこに少しでも不信感があれば使うことが無い、というのは自らの意思決定に置き換えても共感できるところ。みんなの銀行は、脈々と続く文脈を最大限に活かしながら、ブランディングを進めたのだ。

「白黒」&「イラスト」での挑戦

みんなの銀行と言えば、生活の場面を白黒で描いたポップなイラストが印象的。この銀行っぽくないビジュアル誕生の背景にはデザイナーの葛藤と想いがあったといいます。

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(フルスクラッチで新しいトーンを開発。詳しくはみんなの銀行のnoteにて。)

Q. なぜ白黒のビジュアルに?
柳:まず時代の潮流として、Simple & Minimalがユーザーの生活に定着していたということ。そして、世界の銀行のビジュアル面をリサーチした結果、赤・青・緑に集中しており、紫をはじめとした色味を感じない無彩色がほとんど存在しなかった。そこで、みんなを引き立てる「黒」と、何にでもなれる「白」という2色をキーカラーに、モノクロのトーン&マナーで、逆に市場で飛び抜ける印象をつくる提案をした。

中村:ローンチまでいろいろ葛藤はあった。白黒でのブランディングでチープにならずに信頼感を出していくのが結構ハードルが高い。「やっぱり白黒は難しいのでは?」という声があがって、試験的に色を入れてみたことも。でも、「やっぱり、みんなの銀行っぽくない」という結論になり、最終的に白黒で進めようとなった

柳:ローンチした結果、全く批判が無い。むしろUI/UXにおいて使いやすいという評価を目にすると、一つの証明ができた感じがする。色に頼らない体験設計ができるんだと。

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(相当な葛藤と試行錯誤の日々を思い出して思わず笑顔に)

Q. なぜイラストでのブランディングに?
中村:もともと新しいサービスを生み出す上で、「テック感」を大事にしていた。その中でイラストという選択肢が浮かび上がってきた。白黒だと特にUIなどは角張ったイメージがあったので、そこに有機的な線を入れることで、柔らかさやフレンドリーさを出していくことを狙った。

あとは、自分が好きなビール会社であるミッケラーのブランディングにも影響されました。個性的なイラストを上手く使っていて、いろんなビールが並んでる陳列棚の中でもすぐにミッケラーのビールと判別できる。

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(出展 : https://shop.mikkeller.dk/

柳:逆に写真だけだと人感やリアリティだけが残ってしまう。イラストの方が抽象的だからこそ、テックのイメージを植え付けることができる。中村さんからイラストの提案をされて「あぁいいっすね!」となった。

サービス名に「銀行」を入れることでこれまでの「銀行」文脈を踏襲しつつ、一方でこのビジュアルはその文脈からの脱却にも思えます。「銀行」という基盤があるからこそ、ビジュアルでチャレンジし、「信頼」かつ「新しさ」の最適なバランスを持ったブランディングが実現できたのです。

本質を追求できるチーム

そんな新しいサービス設計を推し進めるには、素晴らしいチームメンバーの存在が必要不可欠。「銀行業界に風穴を開ける」という共通した想いがあったからこそ、妥協の無いデザインを進めることができたといいます。

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(デザインチームの礎となっているみんなの銀行とFjordのコアメンバー。)

Q. みんなの銀行はどんなチーム?
柳:Fjord メンバー含めて、全員が自分ごとで考えられている。物怖じして発言しない人がいない。「本当にこれで飯を食べていくんだ」という気概を持ってやっている空気がある

中村:チーム全員が新しいことにチャレンジすることに対しての意気込みや充実感を持ちながら取り組んでいる。そういう意味では銀行感よりもスタートアップ感の方が強い。すべてにおいて、本気で意見をぶつけ合う。その中で一番良い選択肢を選んだ積み重ねが、いまのブランディングに繋がった。「みんなの銀行っぽさ」を追求できるチーム

柳:「正しいけど、荒れるかもな」と思うような質問も、このチームはブレーキをかけない印象がある。現場は大変になることもあるけど、「私はこう思うんですけど」が言えることは、チームにとって非常に良いこと。だからこそ共通認識を持った上で進めることができる。

中村:特徴的なのはデザイン4原則が1時間程度で決まったこと(みんなの銀行のデザイン原則についてはこちら)。普通全然まとまらないものだが、潜在的に常に共有できていたからこそ、言語化がすんなりと進んだ。

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(東京と福岡のメンバー。対面が少なくなりオンライン中心となるも、失速しないワークスタイル。)

革新的なサービスの裏側には優れたチームがいる、というのはビジネス界の常。みんなの銀行もその例に漏れず、本気で向き合えるチームだからこそ今の形を作り出すことができたと想像する。アプリを通してビジュアルに触れるとき、デザイナーたちが自分自身を信じて積み重ねていった結果だと知ると、サービスに対しての印象も変わってくるのでは。

これからのみんなの銀行

みんなの銀行はまだまだローンチしたばかり。2人が考える今後の展望を聞くと、今よりももっと大きなユーザーとの関係が浮かび上がってきた。

Q. 今後みんなの銀行をどういう存在にしていきたい?
柳:触れ合うユーザーに対してもっと必要な存在になっていきたい。その上で、お金に対してネガティブな印象を無くして欲しい。みんなの銀行を通して、お金に対してポジティブになり、もっとリラックスしてお金と接して欲しい

中村:元来、銀行は窓口でライフステージにあった提案をしてきた。マイホームとか、結婚、出産、老後とか。それがずっと窓口で行われていた。でもデジタルネイティブは、お金についての相談や気になることはネットで完結させたい。一方で、ネットは情報過多でどれを信じればいいのか、がわからない。みんなの銀行が、金融リテラシーを育むまではいかないが、「とにかくみんなの銀行にアクセスすればなんとかなる」、という存在になれればと思っている。

明らかに「お金を置く場所」以上に我々の生活に必要な存在になっていこうとしていることがわかる、2人によるみんなの銀行の将来展望。銀行のあり方はもちろん、人々とお金との関係を再定義するような存在になっていく未来に期待が膨らむばかり。

自分を信じてチャレンジできるデザイナーに

最後に2人にデザイナー、特に業界変革に奔走するデザイナーに向けたメッセージを聞いた。

Q. 最後にデザイナーへ一言
柳:やっぱりチャレンジングな選択を取り続けること、とにかく理想を言い続けるということが大事。これを言えるのがデザイナー。本質的なことに対して、そこに妥協しないこと。大変なことが1つ2つあっただけで諦めないことがイノベーションに必要。

中村:インハウスデザイナーは企業によって役割が違う。デザイナーのプレゼンスを作っていくことがすごく重要。あとは、企業自体のあり方も変えていくんだというところに面白みがあるので是非チャレンジしてみて欲しい

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(仕事を通してお互いのデザイナーのあり方に違いや共通点を見つけながら協働しているようです。)

さいごに

今回の記事では2人の対談を通して、みんなの銀行をブランディングの観点で紐解いていきました。「明らかに今までの銀行とは違う」と思わせるブランディングからは新しい銀行の役割はもちろん、人々とお金との関係を再定義し得る期待感さえ抱きます。

銀行を「期待されていない存在」から「生活に必要な存在」へ。今まで当たり前だった銀行との関係性を大きく更新してくれるであろうみんなの銀行のこれからが楽しみです。

みんなの銀行とFjordの対談は、今回だけではなく第二回へと続いていく予定です。イラストをはじめとする具体的なアウトプットやバックエンドの話など、詳しくはみんなの銀行のnoteをフォローしてみてください!


筆者プロフィール

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郷上 亮 / Ryo Gogami
サービスデザイナー / Service Designer
サンフランシスコのデザインファームにて新規サービスデザインやUXデザインに携わった後、Fjord Tokyoにジョイン。人やブランド、社会にとって解く価値のある問いの設定に拘ることで、世の中にインパクトを与えられるサービスの設計に従事している。趣味は高円寺での古着屋巡り。
筆者Twitter アカウント: @ryo_gogami

Fjord Tokyo公式Instagramアカウント: @fjord.tokyo
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