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”顧客に喜びを与えるサプライチェーンの姿とは” 【連載】Fjord Trends 2021 をデザイナー自らが読み解く #05「流動的なサプライチェーン」編

こんにちは。Fjord Tokyoサービスデザイナーの大世渡です。

これまでのトレンド紹介で見てきた通り、2020年の歴史的転換は生活者の購買体験への期待値を大きく変えました。生活者が求める「体験への期待」は業界・業種を問わず、あわゆる場面で加速度的に高まっています。

そんな細分化/拡大し続ける顧客の「体験への期待」に対し、従来と同じく目先のサービス改善だけで対応しようとすると、企業の目の前には増え続けるコストという壁が立ちはだかります。今企業には、急加速した「体験への期待」に持続可能な形で継続的に応えるため、サプライチェーンやビジネスモデル自体の見直しが必要になってきています

今回ご紹介するトレンド5「流動的なサプライチェーン」はそんなサプライチェーンの角度から今後企業に求められる変革に注目したトレンドです。下部にいくつか事例も紹介させていただきますが、より多くの企業が今後、既存の資産やサプライチェーンを見直し、その新しい使い道やビジネスモデルを見つけるだろうと私たちは考えています。

パンデミックにより変化した行動と新しい購買体験への期待

2020年、私たちが物を手にいれる方法が大きく変わりました。読者の皆さんの中にも共感する方が多いのではないでしょうか。

まず顕著なのが実店舗ではなく、オンラインでの買い物が圧倒的に増えたことでしょう。大手ECサイトの利用増加はもちろん、新しい購買体験も誕生しました。昨年に、産地直送の食材を購入して生産者を応援したり、全国各地の「お取り寄せグルメ」を楽しんだりすることが流行したのはその例の一つだと言えます。

これには、顧客が今オンラインでの商品購入に対して利便性よりも、充分な喜びやコミュニティとの繋がりを望む傾向が現れているとも言えます(もちろん、外食ができなくなったから自宅で美味しい食事を楽しみたい、というシンプルな需要もありますが)。2020年以降、私たちはかつてのように自由にお店を回って、商品を手で触ったり匂ったりして選ぶ...という刺激に満ちた購買体験を楽しむことがあまりできなくなりました。私たちの心はこの失われた刺激を、新しい購買体験でも得たいと期待しているのです。

オンラインを通して自宅が店頭の役割を担うようになった今、顧客のブランドへの期待はさらに高まり、商品を選んで買う時だけでなく、自宅で商品を受け取り箱を開ける瞬間までもが重要なタッチポイントになってきています。

急浮上したサプライチェーンのコスト問題

生活者の購買行動がオンラインに移行したことにより、「買い物」という行為が生活の中に溶け込みました。以前は、買い物リストを持ってお店に行き、必要なものをまとめて買っていたのが、今はスマホから必要な時に必要な量だけ買います。今、「買い物」という行為はとても断片的です。

そして、この購入パターンの変化は小売業者に新たな経費負担を強いています。新しい購買行動が求める体験の提供を、目先のサービス改善だけで解決するのは増え続けるコストとの消耗戦になるリスクを高めます。細分化され拡大し続ける顧客の期待に応えるための生産・出荷・保管・配送・返品対応...といったサプライチェーンにかかるコストは優れた体験とのトレードオフだからです。

どうすれば自社の既存資産やサプライチェーンを再構成し、顧客に充分な喜びやブランドとの繋がりを感じてもらえるでしょうか?企業は今、顧客体験の変化に対応するため、サプライチェーンや自社の既存資産の使い方をより柔軟で成長可能なビジネスモデルに見直す必要に直面してます。

顧客のニーズに応えるため、顧客に「いかに近づくか」という点が大きな課題になっています。しかも、それは従来から課題視されることが多かった「ラストワンマイル」のサプライチェーンではありません。顧客の手元に商品が届く最後の数メートルや、数センチのデザインです。

現在の社会情勢は多くの企業に、ビジネスやサプライチェーンに対する考え方を改めること、新しい価値を提供することを迫っています。ここからは、これから多くの企業が考えていく必要があるであろう3つのポイントを事例とともにご紹介します。

1. サプライチェーンを見直し、顧客体験に還元する

コストと体験がトレードオフだと上述しましたが、今こそサプライチェーンにおける自社のポジションを再考し、自社の既存資産とサプライチェーンの活用方法を発想の幅を広げて考えるときではないでしょうか。サプライチェーンを効率性だけで判断せず、優れた体験を届けるための資産として見直すのです。

米国Amazonは、保有しているスーパーマーケットWhole Foodsの実店舗を配送センターに転換しました。人が来なくなったスーパーマーケットという資産を活用し、生活者のより近くに配送拠点を構えることで体験の向上を目指した試みです


パンデミックの影響で新幹線は多くの空席を抱えています。そこに注目したのが、JR東日本スタートアップの試みです。他の交通機関よりも早く正確で揺れが少ないといった利点を活かし、時間や衝撃にシビアな鮮魚の貨物輸送に乗り出しました。鮮魚を産地から新幹線に乗せ、主要駅で鮮魚市場を開くことで、消費者の近くまで品質の高い商品を届けることができるのです。

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(出典:新幹線&特急荷物輸送による鮮魚の宅配と店頭販売開始
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000097.000034286.html)

既存資産の活用という意味で、シェアリングエコノミーも注目されています。昨年はよく「ダークキッチン」という言葉を聞くようになりましたが、これは複数のデリバリーフード専門店が同じ拠点をシェアすることで、立地コストを抑えながら生活者の近くでサービス提供をしようという試みです。

2. 自社のコアバリューを守りながら変化する、二段変速のチャレンジ

これから企業はビジネスモデルやサプライチェーンを見直しながら、コストと体験のトレードオフをどこまで許容するかを決定していく必要があります。そこで企業に求められるのは、柔軟に変化しながらも自社のコアバリューに忠実であることです。

ファッション業界大手企業体LVMHは、パンデミックの発生から数週間以内に自社の香水工場を手指消毒剤工場に転換しました。企業が強いプレッシャー下にあるとき、自分たちのコアバリューに忠実でありながらも、その時々の状況にあわせて消費者や社会に対してどのような価値を提供すべきかを柔軟に見定め迅速に実行した心強い例です。

このように新しい社会ニーズや顧客の期待に応えていくには、従来サプライチェーンの評価軸であった「効率性」は唯一の基準としては機能しなくなります。これからのサプライチェーンは、成長性・俊敏性・柔軟性といったレジリエンスを高めることを目指し再構築していくことが必要です。

3. 持続可能性に目を向けるチャンス

サプライチェーンを見直すということは、同時に「サステナビリティ=持続可能性」についていま一度考える良いチャンスにもなると考えています。

例えば、廃棄についてのビジネスモデルを再構築することはできるでしょうか?IKEAは最近、同社の潜在的な廃棄物を軽減する活動の一貫として、中古家具の買取販売を始めました

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(出典:家具に第二の人生を与える情報発信基地 日本初の「Circular Hub」がIKEA港北に登場!https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000028.000065734.html)

また、ローカルビジネスにも持続可能なサプライチェーンを実現するチャンスがあります。例えば、農業ベンチャー「やさいバス」は、地元の農家と近隣住人をつなぐ地産地消の配送システムです。共同配送トラックが地域を巡回することで個別配送するコストや環境負荷を抑えながら、生活者に新鮮な地元食材を購入できるという体験を提供しています。

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(出典:やさいバスが運ぶ地元野菜 地産地消に新発想  https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000284.000008062.html)

さいごに

今回ご紹介した「レジリエンス」や「サステナビリティ」といったキーワードは、もしかすると皆さんにとってあまり新鮮な響きはないかもしれません。このトレンド5は他のいくつかのFjord Trends 2021と同じように、ここ何年もジワジワと見えてきていた「変化の兆し」が、パンデミックをきっかけにして一気に顕在化したものの1つといえます。

現にFjord Trends 2020でも、「企業は効率性・財務的な成長だけではなく長期的な成長の指標を持つべきだ」(Fjord Trends 2020 トレンド1「新たな成長の公式」より) と述べました。

つまり、このトレンドは元々あった傾向が加速したものであり、パンデミックが収束したからといって消えていく一過性のものではないということです。新型コロナウイルス感染症が引き起こした生活者の価値観の変化によって、今までよりも一層、企業が社会に与える影響への注目度は高まるでしょう。

今こそ、既存資産とサプライチェーンの見直しと再構築をきっかけに、自分たちの企業/ブランドが社会と環境にもたらす影響についても見直すチャンスではないでしょうか。

筆者プロフィール

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大世渡麻子 - Asako Osedo
Fjord Tokyoサービスデザインリード - Fjord Tokyo Service Design Lead
アパレルメーカーの企画営業にてキャリアをスタート。その後、デジタルマーケティング会社にて飲料・自動車・エンタメ等のクライアント企業のデジタルコミュニケーション戦略立案から実行までを担当。オウンドメディア運用、デジマ企画、アプリ企画、UIUX、サービスデザイン...と変遷し、2019年のFjord Tokyo立上げに参画。実行&改善フェーズの経験の多さを強みに、顧客と強い繋がりを生むデジタルサービスの立ち上げ・改善を支援している。(ギターは弾けません)
筆者Twitter: @asako_osedo
【連載】Fjord Trends 2021 をFjord Tokyoのデザイナー自らが読み解く
Trend 00 メタトレンド 「新しい領域の地図づくり」編
Trend 01 「歴史的転換期」編 
Trend 02 「DIYイノベーション」編 
Trend 03 「新しい時代の組織のあり方」編 
Trend 04 「インタラクションの旅立ち」編 
・Trend 05 「流動的なサプライチェーン」編 (本記事)
Trend 06 「共感への挑戦」編
Trend 07 「リチュアルの消失と創造」編

Fjord Tokyo公式Instagramアカウント: @fjord.tokyo
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