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未来をデザインする為にサービスデザイナーとして意識した3つの振る舞い

読者のみなさま、Fjord Tokyoの記事を楽しんでくださっていますか?同じ組織にいるので各メンバーの活動は初めて聞くものではないのですが、改めて記事で読むとデザインの仕事のダイナミックさを再認識することができ、毎回一読者として楽しみにしています。

note連載ではFjord Tokyoのメンバー個人の視点を紹介することを目指しているため、今回は”私的、サービスデザイン”について書きます。サービスデザイナーたちは、壮大なテーマのもと、計画を練り、生活者、クライアント、未来に応えるサービスをデザインします。私の考えるサービスデザインの概要をお伝えした後に、活動の中で特に大事にしている3つのスキルとその理由をご紹介します。

サービスをデザインする”とは、どういうことなのか

私たちの仕事は、「生活者/企業/私たちの未来にとってあるべきサービスを構想・社会実装する。そのためのデザインプロセスに責任を持ち、共創推進に手を尽くす」。少し堅苦しい言葉ですが、生活者、企業、未来の三方のことをよくよく考え、今よりも良い生活を実現するサービスを作ることを目標としています。

サービスデザインが扱う範囲を「フロントステージ」と「バックステージ」と表現します。生活者が触れるサービスや体験することはフロントステージであり、サービスや体験を提供可能な仕組みとして支えるのがバックステージです。生活者だけの視点ではサービスを作り続ける仕組みまではデザインしきれません。企業がサービスをどのように提供するのか、どんな仕組みが必要なのかなどを考えるのもサービスデザインの一部です。

バックステージの考え方を意識的に持たないと、サービスの持続性や他サービスとの連携などがうまくいかず、せっかく考えたサービスも事業として孤立してしまう可能性があります。もちろん、他との連携が必要ない範囲でクイックに、または新規にサービスを立ち上げるということも戦略としてあり得ますが、生活者やユーザーの視点から見たときに企業/ブランドとしてその状態が自然に見えるかどうかという全体感を忘れてはいけないと思います。

ダブルダイヤモンドを遂行するだけが仕事ではない

私たちのサービスデザインは、ダブルダイヤモンドのアプローチを基本にしつつプロジェクトの目的に応じて毎回アレンジしています。細部が違っても必ず共創環境を作り出せるように、クライアント、ビジネスやテクノロジーのコンサルタント、エンジニアと共に、十分なツールを携え、サービスデザインをしています。

ダブルダイヤモンド(Adobe Stock

しかしながら、ダブルダイヤモンドだけでは足りないと感じる場面が多くあります。ダブルダイヤモンドはデザインの過程を表していますが、チームでデザインしていく際の推進力を生み出す事柄は含まれていません。例えば、共通の目標、不確定な環境から発生する変化を厭わない柔軟性、未来を伝えるストーリー力、お互いの違いを認めるインクルーシブな姿勢などが必要です。これらの要素を抜きにしてサービスデザインのプロジェクトがうまくいくとは想像できません。

サービスデザインは、未来を語る仕事だと思っています。未来は誰にもわかりませんが、いつかの未来をデザインすると決めて集まったメンバー同士がチームになります。考え方、アプローチ、得手不得手が違うメンバー同士が信頼し合わなければ、長く不確実なデザインプロセスは頓挫してしまいます。未来は1年後でもいいですし10年後でもいいのですが、同じところを目指すと決めた以上はお互いの考えていること、やってきたこと、信じることを話し合い、一緒にゴールを目指す必要があります。

ここでいうチームはFjordのデザイナーだけではありません。クライアントも含みます。クライアントも含めたチームの結束力は、コミュニケーションをどれだけ大事にするかというあり方次第だと思います。

クライアントとの会話の中で私たちは、多くのことを説明しながらデザインプロセスと私たちの視点(顧客、社会、地球中心であること)を理解いただけるよう促します。逆も然りです。次のようなクライアントからの何気ない質問からはじまるコミュニケーションから、お互いの理解が進みます。

  • デザインにおける課題がなぜ我々の事業ゴールと少し違うのか?

  •  既存顧客のことはよくわかっているのでリサーチは未開拓の範囲だけで良いと思っているが、なぜ既存顧客もリサーチ対象なのか?

  • リサーチが終わったらデザインは出てくるのか?(いつになったら開発するものが出てくるのか?)

  • 儲かるかどうかは、どうわかるのか?

  • サービスデザインはいつ終わるのか?

これらの質問に適切かつ速やかに回答していくことは、信頼関係だけでなく、最終的にご提案するデザインそのものを受容いただく基礎になります。そして、何よりも相互理解につながります。私たちは、回答する側ですが、質問の内容そのものはクライアントや関係者の視点を教えてくれるものでもあります。

このとても重要なコミュニケーションをするときに私自身が大事にしている3つのことをご紹介します

01. メッセージや考えを伝える「可視化と言語化」

常に現在地を知るために、クライアントから提供された情報、インタビューから得られたデータなどたくさんの情報を整理します。次に、理解したことや次のステップへの足掛かりになる要点を構造化します。そして構造が見えると、可視化する方法を考えます。言葉だけでは全体感が掴めないことがあるので、可視化と言葉をセットで用意します。そうすると相手は言葉での説明を聞きながらイメージを補い、可視化した全体感のイメージを持つことができます。

可視化なしで言葉のみだと、お互いに同じことを理解したつもりが後でかけ違いが発覚することがあります。例えば、「プロトタイプを作ります」というアウトプットに合意している場合、 ワイヤーフレームを繋ぎ合わせ、端末で簡易的に画面を確認するものもあれば、ストーリーボードで具体のデザインをする前にコンセプトを表現したものもあります。いずれも今ある可能性を描き、提供価値を検証することを目的にしているのでプロトタイプですが、比較的一般的に「プロトタイプ」という言葉を聞いて画面デザイン案が出てくることを想像します。それにもかかわらず、実際には、ストーリーボードが出てきたら相手は「あれ?」となります。すると次に出てくる質問は、「画面デザインはいつできるのですか?」(対話は続く)

端末で簡易的に確認するプロトタイプ(Adobe Stock
コンセプトを表現したストーリーボード(Adobe Stock

可視化するものの中には、将来振り返る可能性のあるもの、チームの共通認識として残すべきものなどがあり、すべてビジュアル化します。ビジュアル化することで得られる効果は何度も目の当たりにしてきました。時間を経て再度持ち出されても、ビジュアル化されていると全員が一瞬でそのときに戻ることができ、スムーズに議論を始められるという力を持っています。(本当にすごい力です)

02. 思考レベルを合致させ次に進む力となる「抽象化と具体化」

抽象と具体のどちらから話し始めると理解しやすいかは、話す相手の立場やすでに持っている情報量によって違います。そのため、TPO に合わせてどちらでコミュニケーションするかを意識すると認識合わせがスムーズにいきます。

意思決定においては、全体感を把握するために抽象で始め、個別具体が必要なところにおいては具体で説明するという流れが多いです。これは、クライアント上層部の方とコミュニケーションする時に多い方法です。逆に、サービスを具体レベルで見ていらっしゃる方とは個別具体の論点から入り、必要に応じて抽象レベルで起こっていることをお伝えすることが多いです。抽象レベルも一緒に伝えることのメリットは、将来的に抽象レベルは同じでも具体レベルで違うものが出てきた場合にも両方のレベルを理解していると、現場の意思決定が早くなるなどです。

私たちサービスデザイナーは、インタビューや個別の細かい情報何を意味しているのかをまとめ上げるシンセサイズという情報整理&示唆出しの作業をよく行います。これは抽象と具体を行き来し、情報を結論づける作業です。この経験から抽象と具体の行き来は、前に進む力になることを知っています。

03. 目指す姿への納得性をもたらす「新規性と普遍性」

私たちはサービスがどのような価値を提供するかを大事にするため、拙速にソリューション(結論)を出すことはしません。サービスの提供価値は、提供者である企業を他と差別化するための大事な要素であり、過去とつながっている普遍的なこと(=独自性)と、これから盛り込んでいきたい新規性の両方を入れる必要があります。新規性と普遍性の両面を持たせることによ って、すでにある仕組みの中で孤立することのないサービスを構想することができます

新規性を目指す活動では、新しく出てくるサービスやまだ形にはなっていないが感じることができる未来のトレンドへのアンテナを張っておく必要があり、共感力と洞察力が必要です。デザイナーにはこのアンテナを生まれたときから持っている人が多いように思 います。普遍性は、その企業やそこで働く人々のことを理解する過程で発見していくものであり、共感力とコミュニケーション力が問われる活動です。両者のバランスを取ることでサービスの提供価値が形作られ、目指す方向について共通認識が芽生えます。

次の世代に思いを馳せて、デザインをする日々

これだけ多くの活動をしてもデザインしたサービスの全てが世に出ることはありません。サービスコンセプトは良いが開発するための予算が獲得できないことや、実証実験の結果、技術的な難しさが浮上したりすることがあります。しかし、それでめげないのが、私たちです。デザインしたサービス自体が変わったとしても提供したい価値は普遍的な場合があり、時間を経て、デザインできるチャンスは再度巡ってくることがあります

私は、次世代がデジタルの楽しさや可能性に触れ、その本質を理解し、学ぶこと、働くことを持続できる社会が続くことを願っています。そのため、あらゆるサービス(特にデジタルサービス)を良くすることに熱意を持っています。毎日いろんなことがありますが、そのような未来を思い描いてしているので、一つのデザインが頓挫しても、もう一つのデザインが世に出るのに時間 がかかったとしても、毎日手を動かし続けることができるのかもしれません。

一緒に未来について語りたい方、粘り強く情熱を持ってインパクトあるサービスを作りたい方、 お待ちしています。

筆者プロフィール

山口 沙和子 / Yamaguchi Sawako
サービスデザイナー / Service Designer
大学卒業後、国内経済系出版社に入社。雑誌広告営業を経て経済系デジタルメディア運営に携わり、セールス活動、広告商品開発、デジタルマーケティング、メディアプランニング等を経験。2017年にコンサルティング会社、アクセンチュアのデザイン組織へサービスデザイナーとして参画。2019年のデザインスタジオFjord Tokyo立ち上げから携わる。これまで培ってきた生活者視点のリサーチや課題分析手法を駆使しながら、中長期にわたるサービスデザインプロジェクトをリードしている。

Fjord Tokyo公式Twitterアカウント: @Fjord_Tokyo
Fjord Tokyo公式Instagramアカウント: @fjord.tokyo
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