"歴史的転換期における新しい生活者像を見据えた体験デザインの在り方とは” 【連載】Fjord Trends 2021 をデザイナー自らが読み解く #01 「歴史的転換期」編
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"歴史的転換期における新しい生活者像を見据えた体験デザインの在り方とは” 【連載】Fjord Trends 2021 をデザイナー自らが読み解く #01 「歴史的転換期」編

Design Voice by Fjord Tokyo

みなさん、こんにちは。Fjord Tokyoのデザインリサーチャー、伊藤です。

Fjordでは、世界中のデザイナーたちが各国で感じている世の中の変化を日々共有しています。それらをビジネス、テクノロジー、デザイン、そして社会の未来を読み解く7つのトレンドにまとめ、毎年発表してるのがFjord Trendsです。

Fjord Tokyoでは昨年同様、グローバルで発表したFjord Trendsの日本語版を作成しました。英語から日本語への翻訳はもちろん、日本市場独自の文脈に合わせた形でメッセージを発信するために重要な作業となります。

この記事では、トレンド1「歴史的転換期」を担当した私から、トレンドの内容と共にどのようにして日本市場に役立てていただけるよう日本語版を作成したかについて紹介させていただきたいと思います。

(*この記事は前回の記事でご紹介したTrends #00「新しい領域の地図づくり」編の後に読んで頂いた方がより理解が深まります。)

「歴史的転換期」とは?

まずは「歴史的転換期」というタイトルについて。

トレンド1では、新型コロナウイルス感染症に伴って変化を余儀なくされた私たちの新たな生活圏に焦点を当てています。原文のタイトルは「Collective displacement」(直訳で「集団的置き換え」)となっており、多くの人が「集団的に」、生活のあらゆる要素の「置き換え」を体験した、ということを表すものとなっています。

私自身、このトレンドをはじめて読んだ時「displacement」という表現に、グローバルのFjordトレンドを執筆したデザイナーたちの言葉選びの秀逸さを感じました。そして、レポート本文の冒頭では、「置き換え(displacement)」であり「喪失(loss)」ではないことが強調されます。

ここで、私たちが選んだ言葉「転換」について説明を加えます。転換は喪失と同義 ではありません。本書で注目しているのは私たちが失ったことではなく、2020年以前にも行っていた多くのことについて、今は別の方法や場所で、別の人々と(あるいは一人で)行っていることです。(FJORD TRENDS 2021 より)

人とのつながりが制限され、以前のように外出するのも難しくなる中で、悲観的になるのも無理はありません。しかし、この「置き換え(displacement)」という表現に、人々が再びワクワクするような体験を提供できる素地があり、その方法が変わっただけだ、というポジティブなメッセージが込められています。

一方、日本語版では時代の節目を強調するために「転換」という言葉を使いました。今回の危機は、これまで閉塞感を生み出してきた社会システムや企業体制を変革するチャンスとも捉えられます。2021年をどのようにして「歴史的転換」点にできるかが問われていると言えるでしょう。

What's Going On? – 生活圏が変化し、新たな生活者像が出現

これまで私たちが経験したさまざまな危機や変化の中でも、これだけ広範囲かつ同時に多くの人々が影響を受けたできごとは歴史的にも稀だと言えるでしょう。パンデミックにより生活の中心が現実空間からオンラインへと変わっただけでなく、場所の中心が都市から地方へ、コミュニティは単独もしくは小規模へと限定され、日常の中の選択肢は限られたものになりました。

生活の中のさまざまな要素がこれまでと異なる場所・空間に置き換えられてしまったことは、読者の皆さんも身をもって経験されたことと思います。もっとも身近な例だと、緊急事態宣言による外出自粛生活があるでしょう。多くの人々が自宅で仕事をし、運動をし、映画を楽しみ、そしてオンラインを通じて買い物をするようになりました。これまでオフィスに通勤し、ジムに通い、映画館で週末を過ごしていた時と比べると、生活圏が大きく変化したことがわかります。

同時に、これまで慣れ親しんでいた良質な時間や人生の楽しみが過去のものになってしまったという人もいるでしょう。すべてが「元どおり」になることが期待できないいま、新たな生活圏における楽しみや生きがいを発見することが重要となります。

これらの変化に対応する企業には、次の二つのアップデートが必要になります。一つは生活者像のアップデート。オフィス業務中心の生活や、都心での生活を基準に描かれた生活者像は過去のものになりました。新たな生活圏に住む人々と関係をつくっていくためには、生活者像のアップデートが必要となります。

そして、ブランドの認知度向上やサービス体験を提供する方法のアップデート。これまでの楽しみを失ってしまった人々に対して、新たな生活圏ならではの楽しみや生きがいを提供する体験やブランディングが重要となるでしょう。

Case Study - ロンドンマラソンでの成功事例

レポートでは、この「歴史的転換」に伴って各国で行われた様々な取り組みを紹介しています。本記事では、リモートならではの体験を提供した事例としてロンドンマラソンを紹介したいと思います。

2020年のロンドンマラソンはロックダウンの影響を受け、例年の開催時期から半年遅れた10月の開催となりました。マラソンという競技体験の醍醐味は、ランナーが一堂に介し同じコースを走るところにあると言えます。ソーシャルディスタンスが重視される状況下で、ロンドンマラソンはどのような体験を人々に提供したのでしょうか。

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(出典元)London Marathon
https://www.virginmoneylondonmarathon.com/the-event/how-to-follow

2020年に開催40回目という節目を迎えたロンドンマラソンでは、徹底した感染対策を行った上でオリンピック基準のタイムクリアを目指す少数の「エリートランナー」のみが市内の指定のコースを走る一方、例年参加していた市民ランナーも引き続き「バーチャル部門」にリモートで参加できるようにしました。その結果、世界中から4万3000人ものランナーが参加しました。

「バーチャル部門」の参加者はロンドンマラソンの公式のアプリを使ってタイムを計測しながら、自ら決めたコースで指定の距離を走ります。公式アプリには、リモートであっても参加者が実際のイベントと同様の体験ができるよう一般のランニングアプリと異なる様々な工夫がされています。

まず、マラソン当日(10月4日)に至るまでにはニュースレターによるフォローアップに加え、参加者専用のビブスが自宅に届きます。そもそもロンドンマラソンは抽選倍率が高くなかなか参加できないイベント。リモートになったことでより気軽に国外から参加可能になっただけでなく、「ロンドンマラソンに参加する」という高揚感と期待感を高め、当日まで待ちきれないような気持ちにさせる工夫が加えられたと言えるでしょう。

また、ランニング途中には1マイルごとにアプリからアナウンスが届きます。ただ1人で慣れ親しんだコースを走っているのでなく、ロンドンマラソンに参加しているマラソン好きの仲間とつながっているという感覚を楽しんでもらうことが狙いです。マラソンを完走すると、後日自宅にメダルが届きます。メダルは、ロンドンマラソンに参加しただけでなく完走をした証として(しかもバーチャルマラソンという珍しい形で)しっかりと今後もカタチとして残っていくものになります。

ロンドンマラソンは、本来のリアルの場での体験をさまざまな要素に分解した上で人々の新たな生活圏に合わせて組み直し、新たな方法や場所を用いて良質な体験を提供した好例です。この努力の甲斐もあり、2021年のロンドンマラソンにも多くの参加希望者が抽選に申し込んだようです。

What's Next? – キーとなるポイント

では、生活者像のアップデートや、ブランドの認知度向上やサービス体験を提供する方法のアップデートは、具体的にどのように行なっていけば良いのでしょうか。この章では、レポートで提案しているキーとなる6つのポイントを見ていきたいと思います。

1. リモートでの体験提供の方法を確立すること
ロンドンマラソンの事例でも触れたように、すでにリアルな場で提供している体験がある場合はその要素を分解し、新しい生活圏の中でどのように提供していくかを考える必要があります。Fjord Tokyoでは、ユーザーが体験を経験するプロセス(=ユーザージャーニー)を、認知(Entice)、体験前/入り口(Enter)、実際の体験(Engage)、体験後/出口(Exit)、再来訪/再来店(Extend)の5つのタッチポイントで考えることがあります。それぞれのタッチポイントでどのような体験をどのような方法で提供すべきか、生活者に合わせて再構築しましょう。

2. 生活者の情報収集方法の変化に注目すること
生活の中心がオンラインになっただけでなく、リモートワークの普及により人々のライフスタイル自体が大きく変わっています。その中で、生活者が新たな商品や流行と出会う方法も大きく変化したため、自社の商品やサービスを適切なターゲットに認知してもらうためには生活者がどのように情報収集を行っているかを知る必要があります。

3. オンライン中心の購買行動において「マイクロモーメント」の重要性を理解すること
買い物をするタイミングが、仕事の合間や食事をしたあとのひとときなどの「ちょっとした瞬間(=マイクロモーメント)」で行われていることを意識した体験設計が必要となります。レポートで紹介している中国の電気自動車メーカーNIOは、SNSを使った動画チャンネルで様々なコンテンツを提供することで、自宅でスマートフォンを使う人々との接点をつくりだしました。結果として、ディーラーが休業中にも関わらず商品の売上を伸ばしました。

4. リモート/バーチャル空間で商品の「質感」を伝えること
リモート/バーチャル空間でのショッピングが増加していく中で、商品の質感をどのように伝えていくかが重要となります。質感には、例えば商品の材質や触った時の感触、サイズ感などが含まれます。レポートで紹介しているNikeの事例では、店舗で試着しなくてもしっかりフィットするスニーカーを購入できるよう、ARを活用しスマートフォンのカメラで足を写しながらフィッティングを行う体験を提供しています。

5. 没入体験により、リモート/バーチャル空間でのワクワクを提供すること
リモート/バーチャル空間で、現実と同じようにワクワクできる体験をどのように提供していくことができるかがキーとなります。VR技術を使った没入体験で、現実空間ではできないような体験を提供していくことで、オンラインでのショッピング体験を楽しいものにできるでしょう。

6. デジタル広告におけるディスラプションの動向を追うこと
公共交通機関を利用し街に出掛ける人々の数が減ることで、デジタル広告がより一層重要となります。生活者への新しいアプローチ方法を提供する可能性のあるディスラプティブな広告の動向からは目が離せないでしょう。

また、現在は移行期と考えられるため、一時的に起こっている変化と今後「ニューノーマル」となる部分の見極めが重要となります。メタトレンド「新しい領域の地図づくり」でも触れている通り、新たな領域で実験的な体験の提供や生活者とのコミュニケーションを実践しつつ、その領域が一時的に必要となっているものなのかどうか、常に注意する必要があります。

Fjordからの提案

最後に、これまでのまとめの意味も込めて私たちFjordからみなさんへ「歴史的転換期」にどのような点を意識すべきか、Think(考えるべきこと)、Say(言うべきこと)、Do(するべきこと)の三つの切り口から提案させていただきたいと思います。

Think:
自らの顧客が置かれている状況がどのようなものなのか?常に気を配り続けましょう。不安定な状況が続く中で、生活者像を日々アップデートする必要があります。

Say:
ビジネスが人々に希望を与える役割を担っていることを理解しましょう。社会状況に十分配慮しながら自社からのメッセージの「語り口(トーン・オブ・ボイス)」について考えるのはもちろん、地域や国に合わせてコミュニケーションをうまく変えながら、人々が希望を抱くことができる語り口とメッセージを選ぶことが重要となります。

Do:
商品を触った時の感覚、店舗での接客、店内の回遊を楽しむといった物理的体験を、現在の置かれた状況でどのように提供できるか考えましょう。人々が商品をいろいろ見たいと思う気持ちを誘発したり、インスピレーションを得ることのできる体験を提供することが重要となります。

最後に

最後まで記事を読んでくださったみなさま、ありがとうございました。今年のFjord Trendsは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響もあり、多くの人が自分ごととして捉えることができる「歴史的転換期」からはじまっています。もしかしたら、昨年までのトレンドと比べて少し真新しさに欠けるような印象を抱いた方もいらっしゃるのかと思います。

しかしながら、多くの人々が経験したこの危機を、人々の生活を中心に考えていくところにFjordらしさがあるのではないかと思います。冒頭で触れたように、この大きな社会変化をこれまで築いてきたものが失われた(=loss)のでなく別の場所・時間に置き換えられた(=displacement)という視点でみることで、現在の状況を危機から好機に転換できるのではないかと私たちは考えます。

パンデミックをきっかけにリモートワーク中心の生活になり、拠点の移動や自分自身の人生設計について考え直した方も多くいらっしゃることと思います。このタイミングで、これまで変えることのできなかった、企業体制、事業構造、顧客との関係などを変えていき、いまの状況を「歴史的転換」点とするかどうかは私たち次第です。

次回の記事では、トレンド2 「DIYイノベーション」をデザインリサーチャーの渡辺が解説します。ぜひお楽しみに!

筆者プロフィール

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伊藤建人
Design Researcher
ロンドン大学ゴールドスミス校にてデザインを学んだのち、帰国後、株式会社ロフトワークにて、新規事業のためのデザインリサーチや民間・公的機関のデザイン思考のトレーニングを担当。2020年にFjord Tokyoにジョイン。顧客起点でのサービス設計を目的に、人の表層的な行動の裏にある動機や文脈を探り出し、より良い体験へとつながるインサイトを導出することが主な役割。趣味は散歩とサウナ。
【連載】Fjord Trends 2021 をFjord Tokyoのデザイナー自らが読み解く 
Trend 00 メタトレンド 「新しい領域の地図づくり」編
・Trend 01 「歴史的転換期」編(本記事)
Trend 02 「DIYイノベーション」編
Trend 03 「新しい時代の組織のあり方」編
Trend 04 「インタラクションの旅立ち」編
Trend 05 「流動的なサプライチェーン」編
Trend 06 「共感への挑戦」編
Trend 07 「リチュアルの消失と創造」編

Fjord Tokyo公式Instagramアカウント: @fjord.tokyo
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