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【Fjord Trends 2022】 今日から実践できる「ケア」について

こんにちは。Fjord Tokyoサービスデザイナーのキムと、ブランドデザイナーの上江洲です。私たちはFjord Trends 2022の「ケア」をテーマにしたトレンド「『ケア』を大切に」の翻訳監修とリサーチを担当しました。Fjord Trends 2022日本版の発表後、複数の方から「ケア」は他のテーマと比べると抽象的で噛み砕きづらかったという感想をいただきました。そこで、この記事では「ケア」とは何か?について、具体的な補足や、私たちが実際に利用している事例を交えながら、よりわかりやすくお伝えします。

3種類の「ケア」

日本語(カタカナ語)の「ケア」は、一般的に「①介護や世話、②手入れ」という意味があります。英語の「Care」はそれに加えて、「心配する、気にかける」という「感情」の意味も持ちます。ここ数年続くコロナの影響で、自分自身の心と体の健康を守るだけでなく、家族や同僚など周りの人の介護や世話の比重も高まり、それによる心理的・感情的な負担が増えています。「ケア」の重要性が増す中、Fjord Trendsでは複合的な意味合いを持つ「ケア」を、以下のように3種類に分類しています。

1)自分自身のケア
パンデミックにより、世界中でメンタルヘルスの混乱が起きました。象徴的なニュースとしては、アメリカの女子体操選手、シモーネ・バイルズが東京2020オリンピック競技大会を棄権し、自身のメンタルヘルスを優先する姿勢を示したことがありました。競技に勝つことだけに集中するのではなく、自身の心と体が回復する力や、勇敢さを世界中の人々に示したトップアスリートとして、シモーネは2021年にTimesのAthlete of the Yearにも選出されています。

2)家族のケア
コロナ禍によりもたらされた新しいライフスタイルでは、子どもや兄弟・両親など、家族の「ケア」の時間が増えました。例えば、医療へのアクセスが制限される中、家族の通院予約を取るのに時間がかかったり、リモート学習が推進され家庭で子どもの世話をする時間が増えたりするなど、パンデミック以前には存在しなかった時間的・金銭的・そして心理的な義務が増加しました。

3)家族以外(同僚・部下)のケア
家庭だけでなく職場でも、同僚の突然の病欠や休暇に思いやりを持って対応しなければならない状態が恒常化されました。生産性の維持・向上と、急な対応の心理的負荷との折り合いをつけることが難しいと感じたマネジメント層の方々もいらっしゃるかもしれません。

「ケア」の提供者

「ケア」を与える側、つまり提供者は、「個人」と「企業」の2種類に分類できます。提供者が変われば当然、「ケア」の内容も規模感も異なります。この章では、「個人が提供するケア」と「企業が提供するケア」それぞれについて事例を交えながら深堀ります。

ー個人が提供するケアー
「個人が提供するケア」は、個人による自身や家族の精神的・身体的健康を維持するための行動です。自分自身のケアと聞いた時、「自分へのご褒美」を思い浮かべた方もいらっしゃるかもしれません。普段よりも豪華な食事をしたり、奮発して前から欲しかったブランド物を購入したり、マッサージやサウナ、また、日常から離れてどこか遠い地に旅行に行くこともあるでしょう。
基本的に「自分が自分に提供するケア」は、自身の気持ちが満たされる行動をし、心身ともに健康になることを目的とします。しかし、中には自身の心理面・身体面の変化に気づけないケースや、異常を感じていてもその対処法が分からないというケースもあります。自分一人では解決できそうにないと感じた時に家族や友人に話を聞いてもらうこと、専門家に助言をもらうこと、また医療機関にかかることも大切なケアの一環です。「自分が自分に提供するケア」のためのプロダクトは、以下のような事例があります。

出典:https://ouraring.com/

Oura Ring
コロナ禍以降、自身の健康状態をモニタリングできるウェアラブル機器が急速に普及しています。中でも睡眠状態をトラッキングできるOura Ringは海外のセレブやトップアスリートが着用したことで注目されている指輪型デバイスです。睡眠中に着用していても違和感がなく、合計睡眠時間・睡眠効率・安眠度・レム睡眠・熟睡・睡眠までかかった時間・睡眠のタイミングなどの項目が数値として専用アプリにて確認できます。数値の低い項目に関してはその原因やヒントも確認できるため、長期的に着用することで、ストレスおよびメンタルヘルスと密接な関係にある睡眠の質の改善につながることが期待されます。

ー企業が提供するケアー
「企業が提供するケア」は、企業が社員の精神的・肉体的健康を維持するための行動です。一方的に提供するだけでは意味がなく、ケアを受ける側の納得や理解があって初めて機能します。ここでは、企業がケアを提供する側として消費者のヘルスケアをサポートするサービスの提供や自社の従業員のウエルビーイングに対するケアがもたらす影響力を中心にいくつかの企業を取り上げます。

NIKE
Nikeでは、新型コロナウイルスの蔓延に伴う各種ストレス、長期化するリモートワークによるメンタルヘルスに配慮するため、本社勤務している12,000人以上の社員に対し、2021年8月に1週間の休暇を与える決断をしました。

Spotify
Spotifyでは2018年からセルフケアに付随する意識や知識を社内として高め、差別や偏見といった社会的スティグマを取り除くことを目的とした「Heart & Soul」というメンタルヘルスを啓発する取り組みを行なっています。また、Spotifyリスナーにも、ヨガや睡眠に特化したプレイリストを積極的に発信するなど、サービスに関わるすべての人々のメンタルをケアする取り組みをしています。

このように、パンデミックをきっかけに従業員や消費者に対して企業が提供するケアが世界的に加速しています。しかし、常に適切な「ケア」を十分に受けていると感じる人は、日本でどれくらい存在するのでしょうか?コロナ禍以前に比べてサポートを感じる場面は増えていると思いつつも、グローバルに比べると日本の方が、多少遅れが生じているように見受けられます。

日本で「ケア」が受け入れられにくい背景

では、日本では、個人のメンタルヘルスや幸福を優先することに対する、社会的な許容度はどれくらいあるのでしょうか?

厚生労働省の調査によると、日本では、まだ半数以上が職業生活に不安やストレスを感じているのが現状です(図1)。全体として有給取得率は上がってきているものの、「有給取得はみんなに迷惑がかかる」と躊躇する人が67%存在します(図2)。有給休暇以外にも、生理休暇や男性の育児休暇など、制度はあれど堂々と利用できる文化が未成熟であると言えます。

また、日本では2015年からストレスチェックの実施が義務化をされましたが、全体の6割以上がそれに対し一方的で機能していないと回答し、また、34%の人がストレスチェック自体に抵抗を感じています(図3)。まん延防止等重点措置以降のストレス増加傾向に加え、目まぐるしく変わる世界情勢なども心理的負荷を増大させていると考えられます。

出典(図1)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r02-46-50_gaikyo.pdf(図2)https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category4/20210423_1.pdf(図3)https://release.nikkei.co.jp/attach/617998/02_202109151648.pdf

企業は、長期的に盤石な組織体質を育むためにも、短期的な成果目標や生産性向上だけに目を向けるのではなく、個の社員の精神的・身体的健康を優先して運営を行うことが重要です。そのためには、機械的に変化を拒むような規則に基づくマネジメントから、有機的に変化を受け入れながら、社員からの信頼に基づくマネジメントにチェンジしていく必要があるでしょう。

私たちが実践・実感する「ケア」

ここからは、私たちが日々実践・実感する「ケア」について、実体験を交えながらご紹介します。

上江洲が実践する「ケア」:
メディテーションアプリ「Headspace」
「Headspace」は、ユーザーの状態に合わせて解決のための行動をガイドしてくれるアプリです。不安やストレスを感じた時の瞑想プログラムだけでなく、導眠のための瞑想プログラムや、体を動かす運動プログラム、仕事に集中するための音楽プレイリストなどがあります。定期的なチェックインでメンタルの状態を記録することで、自分自身の変化に気づくことができます。アプリは日本語に対応していませんが(英語・フランス語・ドイツ語・ポルトガル語・スペイン語のみ)、NetflixでHeadspaceが提供するコンテンツは日本語吹き替え版や字幕版で見ることができ、眠れない時の「寝落ちコンテンツ」として最適です。

出典:Headspace アプリ画面

キムが実感する「ケア」:
Fjord Tokyoでのコミュニケーション
私の場合、学生生活最後の年から現在に至るまでの約2年間をリモート中心に過ごしていますが、このリモートスタイルに本当の意味で慣れたのはここ最近の話です。プロジェクトに配属された当初は仕事と休憩のバランスや空気感が分からず、タスクを優先するようにしていたら見る見るうちに余裕がなくなっていき、気づいた時には心が限界を迎えていました。ちょうどそのタイミングで上司との1on1があり、リモートワークをする上で抱いていた大小のモヤモヤを打ち明けたところスッと気持ちが落ち着き、その日を境に自分の心身を優先させながら前向きに仕事に向き合えるようになりました。出退勤のストレスなく慣れた空間で作業ができることは快適ですが、周りが見えなくなってしまう状況に陥りやすくなる危険性があるということに気づけたので、自分からも働く仲間に対して雑談を持ちかけ、コミュニケーションを取ることを意識するようになりました。
Fjord Tokyoにはメンバー同士のコミュニケーションを図るための社内活動が充実しているのですが、中でも「水曜日のgifチェックイン」という、主催者をリレー方式で毎週変えながらお題を投げかけられたメンバーがgifを添えて答えていくという雑談スレッドが個人的にお気に入りです。

FjordのGIF CHECK IN


これからの、かしこまらない「ケア」

個人や家族、そして企業の「ケア」は、問題が起きてから対処するのでは、解決の難易度が上がりがちです。個人の健康や幸せをより長く持続するためには、現状の「マイナス」を「ゼロ」にするケアではなく、未来の「マイナス」を予防し「プラス」へと変えていくことの優先度を上げることが必要です。そのためには、規則や制度に縛られた「かしこまったケア」の義務化よりも、自身や家族・同僚への「いたわり」を優先し、対話に基づいた「かしこまらないケア」の権利化が重要なのではないでしょうか。

キム ドヒ - Kim, Dohee
Service Designer
武蔵野美術大学デザイン情報学科を卒業後、デザインとビジネスを掛け合わせたクリエイティブなことがしたいという想いを胸に2021年8月にアクセンチュアに新卒入社。同年10月にFjordに参画し、ブランド変革プロジェクト等に携わる。休日はバイクで絶景とグルメをめぐる旅に出る。

上江洲 佑布子 - Uesu, Yuko
Brand Designer
東京造形大学グラフィックデザイン専攻、オランダのロッテルダム大学大学院で Lens-Based メディアデザイン&コミュニケーションを修了。前職はグローバルデジタルエージェンシーにて、クリエイティブディレクター/ストラテジープランニングディレクターとして、大手企業からベンチャーのマーケティングや新規事業立上げサポートなどを担当。2021年10月にFjordに参画し、ブランド変革プロジェクト等に携わる。

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